太極整体とは

太極整体の理論と実践

入り口、「ただ立つ」ということ

番組で最初にご紹介したのは、難しい技ではありませんでした。ただ、立つことです。しかし、ここでいう「立つ」とは、胸を張り、背筋を伸ばし、身体を正しい形へ押し込むことではありません。

この最初の立ち方が、単なる姿勢ではなく、身体が本来の自分を思い出していく、最初の自己整体なのです。

軽く跳び、落胯を思い出す

天師降臨の空中に浮いているときの状態。演(若林政樹)

 特別な方法で、軽く跳んで着地する。両足がほんの少し地面を離れ、余分な力を抜いたまま自然に着地します。このとき身体の中に現れる状態を、太極拳では「落胯」と呼びます。
落胯は、腰を落とした外見的な姿勢ではありません。
明鏡止水での番組内で、正源司陽子さんにも行っていただいた、この特別な軽いジャンプには、もとのからだを思い出す一瞬の出来事が備わっています。

重力と調和する身体の中心軸が思い出され、中心軸から、身体の表面を走る中心線の輪(小周天と呼ばれます)が巡り、腰の周り(帯脈)そして、全身へと循環が始まります。
そして、骨盤の仙骨の上に立つ背骨(夾脊)が、尾てい骨の先(尾閭)から、頭蓋骨の接続する部分(玉枕)まで、本来の構造を取り戻し、周辺のインナーマッスルが正常に動き出し、身体の土台が整います。

この元の土台を一瞬にして思い出す、自己整体が、この落胯のためのジャンプです。正式名は天師降臨(てんしこうりん)ですが、一般向けにはわかりやすく、「落胯(らっこ)ジャンプ」とも名付けました。

予備式から起勢へ

立つことによって身体の土台が整うと、内勢によって、次に動きが始まります。

太極拳では、最初に静かに立つ姿勢を「予備式」と呼び、そこから腕がゆっくりと上がり始める最初の動きを「起勢」と呼びます。
この大切なところも「明鏡止水」で放送していただけました。

予備式は、動作の前に止まっている時間ではありません。
そして起勢は、腕を筋力で持ち上げる動作ではありません。
身体の中心が整い、その働きが全身へ広がった結果として、腕が自然に動き始めます。
太極整体では、この予備式から起勢へ移る過程を大切にします。
それは、静止から運動へ移るときに、人間の身体がどのように全身を統合しているのかを、最も分かりやすく体験できるからです。

整体に必要な「太極の理」

 太極整体は、単に筋肉を緩めたり、姿勢を矯正したりする整体ではありません。
その根底には、太極拳に古くから伝わる「太極の理」があります。
太極とは、互いに対立しているように見えるものを、一つの働きとして調和させる考え方です。

例えば、

  • 上と下
  • 左と右
  • 前と後ろ
  • 緊張と弛緩
  • 動と静
  • 吸うことと吐くこと
  • 重力と、それを受け止める力
  • 崩れることと支えること

身体は、このような相反する働きが互いに支え合うことで、本来の力を発揮しています。
太極整体では、この調和した状態を身体の中に思い出していきます。
これが「太極の理」です。


太極の理は、身体を円転させる

太極には、もう一つ大切な特徴があります。
それは、円転です。
太極図(陰陽図)は、白と黒が互いに追いかけ合いながら円を描いています。
この円は、対立ではなく、互いに支え合い、互いに変化し、互いに一つになる働きを表しています。
身体も同じです。
中心軸が整い、気が循環すると、身体には自然な円運動が生まれます。
太極拳では、この働きを太極勢とも呼びます。
太極整体では、この円転する身体の働きを利用して、身体を本来の状態へ戻していきます。

NHK「明鏡止水」でご紹介した身体

この原理を実際にご覧いただいたのが、NHK「明鏡止水」です。
番組では、太極整体の入口である「立つこと」だけでなく、その先にある身体の可能性もご紹介しました。
その一つが、中澤選手との実演です。

中澤さんが崩れた理由

この写真の白服は若林政樹ですが、もう一人の男性は中澤さんではありません。独自に再現して撮影したものです。

多くの方は、「あれは特殊な技なのでは」と思われたかもしれません。
しかし、実際には腕力で倒したのではありません。
中心軸が通り、身体全体に循環が生まれ、そこから自然な円転が起こる。
その流れの中で、相手の身体もその円運動へ自然に取り込まれていった結果です。
あの時に用いた姿勢が、太極拳の代表的な姿勢、白鶴亮翅でした。

『明鏡止水』でも紹介された「太極の理」

※写真は放映された実際の場面写真ではありません。独自にほぼ忠実に再現して撮影したものです。

NHK『明鏡止水』では、私と門下生が実演した技の中で、「太極の理」が映像によって大変わかりやすく表現されていました。

技に合わせて、太極図(陰陽図)が重なり、白と黒が円を描きながら巡る様子が映し出されます。

あの映像をご覧になった方は、「なぜ円が重ねられていたのだろう」と思われたかもしれません。

実は、あの円こそが、太極拳の最も大切な身体原理を表しています。


太極図が表しているもの

太極図の白と黒は、敵と味方を表しているのではありません。
陰と陽。動と静。押す力と受ける力。緊張と弛緩。
相反する二つの働きが、互いに争うことなく、一つの円となって循環している姿です。
身体も同じです。
まず相手の力や、自分の身体の状態に逆らわず「随う」。随うことで、互いは自然につながります。つながれば、円の中で一緒に巡り始めます。そして、その円転の中で力は自然に変化し、最後には一つの働きへと調和していきます。

これを太極拳では「随連粘化」と呼びます

太極拳では、この身体の一連の状態を、随連粘化という四文字で表します。

随

まず相手に逆らわず、その力に随います。

連

すると、互いの身体は自然につながります。

粘

つながったまま離れず、身体全体で寄り添います。

化

そして、その円転の中で、力は自然に変化していきます。

つまり、勝つことではありません。調和することです。これが太極拳の最も大切な原理です。

番組でご覧いただいた技も、この原理です

※白服は若林政樹ですが、他の人物は中西さんではありません。独自に再現して撮影したものです。

 番組では、この太極の理を、実際の技を通してご紹介しました。
サッカー解説者の中西哲生さんにも体験していただきましたが、私は腕力で投げたわけではありません。
相手の力に逆らわず、その力に随い、一つにつながり、円転する流れの中で自然に変化が起こった結果です。
番組をご覧いただくと、この流れが映像で非常に分かりやすく表現されています。

今後の再放送の予定は未定です。再放送等については、NHKの番組情報をご確認ください。

映像をご覧になる機会がありましたら、このページとあわせて、私がお伝えしたい「太極の理」を理解する手がかりにしていただければ幸いです。

太極整体も同じ原理です

この「随連粘化」は、武道だけの技術ではありません。
太極整体でも、まったく同じ原理を用いています。

施術では、身体の無理な動きに逆らうのではなく、その状態に静かに随い、一体となりながら、施術者の内勢を伝えていきます。
すると、身体は自ら本来の働きを思い出し始めます。

また、一人で行う太極整体でも同じです。
整えようとする自分と、崩れている自分。
その二つを対立させるのではなく、調和させながら、本来の身体へ戻していきます。

すべては「立つこと」から始まる

予備式で静かに立つこと。
ここにも、まったく同じ太極の理があります。
中心軸が通り、身体に循環が生まれ、内勢が育つ。
そうして、身体は本来持っていた太極の働きを思い出していきます。
『明鏡止水』では、その最初の入口である「立つこと」、そして、その先にある人間本来の身体の可能性を、一つの番組の中でご紹介することができました。

太極整体を、日常の身体へ

太極整体が目指すのは、誰もが人を倒せるようになることではありません。
そのような現象は、人間の身体が本来持っている可能性を理解するための、一つの例にすぎません。
本当に大切なのは、その原理を毎日の生活へ戻していくことです。

立つことが楽になる。
歩くことが軽くなる。
呼吸が自然に深くなる。
人や物を支えるときの負担が減る。
力みを手放しやすくなる。
自分の身体の変化に気づきやすくなる。

太極整体は、特別な能力を身につけるためのものではなく、日常の動作を少しずつ自然なものへ戻していくための体系です。